「インフラエンジニアはプログラミングをしない」という話を聞いたことがあるかもしれません。
かつては、サーバーやネットワーク機器の物理的な設定や保守が主な仕事であり、プログラミングスキルが必須ではありませんでした。
しかし現在では、ITインフラの世界は大きく変化しています。
特にクラウド技術の普及は、インフラエンジニアの働き方を大きく変えました。
そこでこの記事では、「インフラエンジニアは本当にプログラミングをしないのか?」という疑問についてや、プログラミングが必要になる場面、求められるプログラミングスキルなどについて、実態と真相を徹底的に解説していきます。
【本記事の信頼性】
- 執筆者は元エンジニア
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【結論】インフラエンジニアがプログラミングをしないかどうかは場合による
結論から言うと、インフラエンジニアがプログラミングをするかどうかは、担当する業務領域や企業の環境によって大きく異なります。
現在でも、プログラミングを一切行わないインフラエンジニアは存在します。
一方で、高度なプログラミングスキルを駆使して活躍するエンジニアも増えているのが実情です。
この違いが生まれる最大の要因は、クラウド化の進んだことです。
従来のオンプレミス環境(自社でサーバーなどを保有・運用する形態)を中心に扱う現場では、物理的な機器の設定やネットワークの配線、OSのインストールといった手作業が業務の中心となることもあります。
オンプレミス環境では、プログラミングスキルが直接的に求められる場面は少ないでしょう。
しかし、AWS (Amazon Web Services) や Microsoft Azure、Google Cloud といったクラウドサービスを利用するのが当たり前になった現代では、状況が全く違います。
クラウド上では、サーバーやネットワークといったインフラをプログラムコードで定義し、自動で構築・管理するIaC(Infrastructure as Code)の考え方が浸透しています。
そのため、クラウドを主戦場とするインフラエンジニアにとって、プログラミングスキルは業務を効率化し、価値を高めるための強力な武器となるのです。
インフラエンジニアがプログラミングをしないケース
インフラエンジニアの業務範囲は広く、中にはプログラミングを必要としない領域も存在します。
ここでは、どのような場合にプログラミングスキルがなくても活躍できるのか、具体的なケースを見ていきましょう。
ハードウェアやネットワークを専門に担当している
データセンターで物理的なサーバーやストレージ、ネットワーク機器の設置・設定・管理を専門に行うインフラエンジニアは、プログラミングに触れる機会が少ない傾向にあります。
彼らの主な業務は、サーバーラックへの機器の搭載(ラッキング)、ケーブルの配線、ネットワーク機器(ルーターやスイッチ)の初期設定など、物理的な作業が中心となるからです。
例えば、新しいサーバーを導入する際には、ハードウェアの選定から始まり、データセンターへの搬入、物理的な設置、そしてOSのインストールや基本的なネットワーク設定を行います。
これらの作業は、各メーカーが提供する管理ツールやコマンドラインでの操作が主となり、必ずしもプログラミング言語を用いた開発が必要になるわけではありません。
もちろん、ネットワーク機器の設定を効率化するために簡単なスクリプトを使うことはありますが、それはあくまで補助的なものです。
システムの運用・保守を担当している
すでに構築されたシステムの安定稼働を支える「運用・保守」フェーズを専門に担当する場合も、プログラミングをほとんど行わないことがあります。
主な業務は、システムの稼働状況を監視ツールでチェックし、異常が検知されれば手順書に沿って対応する、といった定型的なオペレーションが中心です。
具体的な業務としては以下の通りです。
監視 | サーバーのCPU使用率やメモリ、ネットワークトラフィックなどを24時間365日監視します。 |
障害対応 | アラートが発生した際に、定められた手順書(ランブック)に基づいてサーバーの再起動やサービスの再開などの対応を行います。 |
問い合わせ対応 | ユーザーからの「システムに繋がらない」といった問い合わせに対応します。 |
定期メンテナンス | バックアップの取得や、OSのセキュリティパッチ適用などを定期的に実施します。 |
これらの業務は、システムの仕様を深く理解し、手順通りに正確な作業を遂行する能力が求められます。
もちろん、監視の仕組みを改善したり、定型作業を自動化したりするためにスクリプトを作成することもありますが、必須スキルとまでは言えない現場の方が多いです。
インフラエンジニアにもプログラミングが求められるケース
クラウド技術の普及とビジネススピードの加速に伴い、インフラエンジニアにプログラミングスキルが求められる場面は急速に増加しています。
ここでは、プログラミングスキルが特に重要となる3つのケースを解説します。
クラウド環境の構築・運用(IaC)
現代のインフラエンジニアリングにおいて、プログラミングスキルが最も活かされるのがクラウド環境の構築・運用です。
特に、IaC(Infrastructure as Code)の実践にはプログラミングの知識が欠かせません。
IaCとは、サーバー、ネットワーク、データベースといったインフラ構成を、JSONやYAML形式の設定ファイルやプログラミング言語のコードで記述し、管理する手法です。
例えば、AWSでは「CloudFormation」、Azureでは「ARMテンプレート」、そして複数のクラウドに対応する「Terraform」といったツールが広く使われています。
これらのツールを使いこなすことで、以下のようなメリットが生まれます。
作業の自動化・効率化 | 何十台ものサーバーを手作業で設定する代わりに、コードを実行するだけで数分で構築が完了する。 |
ヒューマンエラーの削減 | 手作業による設定ミスや漏れがなくなり、インフラの品質が均一化される。 |
構成の再利用性 | 一度作成したコードをテンプレートとして、別の環境(開発環境、本番環境など)にも簡単に展開できる。 |
バージョン管理 | Gitなどのバージョン管理システムでインフラの構成変更履歴を管理でき、いつでも過去の状態に戻せる。 |
このように、IaCを実践するクラウドエンジニアにとって、コードを読み書きする能力は、設計図を読み解き、建築物を建てる大工の道具と同じくらい重要なスキルなのです。
運用の自動化・効率化
先ほど、「運用・保守の仕事ではプログラミングが必要ない場合が多い」と書きましたが、状況によっては必要になることもあります。
日々の業務には、バックアップの取得、ログの収集・分析、サーバーの再起動、セキュリティパッチの適用といった、数多くの定型作業が存在します。
これらの手作業をスクリプトによって自動化することで、業務効率を劇的に向上させ、ヒューマンエラーを減らすことができるのです。
例えば、以下のような場面でプログラミングが活用されます。
- ログ監視の自動化: 大量のログファイルから特定のエラーメッセージを検知し、Slackやメールで自動通知するスクリプトを作成する。
- バックアップ作業の自動化: 深夜に自動でデータベースやファイルのバックアップを取得し、結果をレポートするスクリプトを実行する。
- 障害発生時の一次対応自動化: 特定のサービスが停止していることを検知したら、自動でサービスを再起動させるスクリプトを組む。
このような自動化を実現するためには、ShellスクリプトやPowerShell、Pythonといった言語の知識が非常に役立ちます。
DevOpsの推進
近年、開発チーム(Development)と運用チーム(Operations)が連携・協力し、ビジネスの価値を迅速かつ継続的に顧客に届けるDevOpsという考え方が注目されています。
このDevOpsを実現する上で、インフラエンジニアのプログラミングスキルは極めて重要な役割を担います。
DevOpsの環境では、アプリケーションのビルド、テスト、デプロイ、そしてインフラの構築といった一連のプロセスを自動化するCI/CD (継続的インテグレーション/継続的デリバリー) パイプラインを構築します。
このパイプラインを構築・維持するためには、インフラエンジニアも開発エンジニアと共通の言語で会話し、ツールを使いこなす必要があります。
例えば、JenkinsやGitHub Actions、CircleCIといったCI/CDツールを扱う際には、パイプラインの設定をコード(YAMLファイルなど)で記述します。
また、アプリケーションが動作する環境(コンテナなど)をコードで管理したり、インフラのプロビジョニングを自動化したりと、あらゆる場面でプログラミングスキルが求められるのです。
開発と運用の垣根を越えて協力するためには、インフラエンジニアがプログラミングを理解していることが、円滑なコミュニケーションと迅速な開発サイクルの前提となります。
インフラエンジニアに必要となるプログラミング言語
インフラエンジニアが習得すべきプログラミング言語は、アプリケーション開発者とは少し異なります。
ここでは、インフラの構築や運用の自動化に特化した、代表的な5つの言語・スクリプトを紹介します。
Shell(シェルスクリプト)
Shellスクリプトは、LinuxやUNIX系OSを扱うインフラエンジニアにとって、最も基本的かつ重要なスキルと言えるでしょう。
Shellスクリプトを扱うことで、OSのカーネル(中核部分)とユーザーを仲介する「シェル」を対話的に操作するだけでなく、一連のコマンドをファイルに記述して自動実行させることができます。
サーバーの設定、ファイルの操作、プロセスの管理、ログの集計といった日常的な運用タスクの多くは、Shellスクリプトで自動化することが可能です。
例えば、「毎日深夜にWebサーバーのアクセスログを圧縮し、バックアップディレクトリに移動させる」といった単純な作業も、スクリプトを書いてcron(定時実行機能)に登録しておけば、完全に自動化できます。
複雑なプログラミングはできなくても、既存のコマンドを組み合わせて処理の流れを記述できるため、学習コストが比較的低いのも魅力です。
PowerShell
PowerShellは、Windows環境におけるShellスクリプトと位置づけられる強力なツールです。
Windows Serverの管理やActive Directoryの操作、Microsoft 365やAzureといったマイクロソフト製品群の自動化において絶大な力を発揮します。
従来のコマンドプロンプト(バッチファイル)とは異なり、PowerShellは.NET Framework
を基盤としたオブジェクト指向のシェルです。
コマンドの実行結果を単なるテキストではなく「オブジェクト」として扱えるため、データの絞り込みや加工、連携が非常に柔軟に行えます。
例えば、「Active Directoryから特定の条件に合致するユーザーの一覧を取得し、その結果をCSVファイルに出力する」といった処理も、数行のコマンドで簡単に実現可能です。
Windows中心のインフラを扱うエンジニアであれば、習得必須のスキルと言えるでしょう。
Python
現在、最も人気の高いプログラミング言語であるPythonですが、インフラエンジニアにとっても注目度の高いプログラミング言語の一つです。
文法がシンプルで学びやすく、それでいて非常に汎用性が高いのが特徴です。
単純なスクリプティングだけでなく、本格的なツール開発までこなせるため、習得すれば市場価値を大きく高めることができる言語です。
IaCツールであるAnsibleも、裏側ではPythonで動作しています。

Ruby
Rubyもまた、インフラ管理の分野で広く使われてきた言語の一つです。
特に、構成管理ツール(プロビジョニングツール)の「Chef(シェフ)」や「Puppet(パペット)」がRubyで記述されていることから、これらのツールを利用する現場では必須のスキルとなります。
ChefやPuppetは、サーバーの状態(インストールされているべきソフトウェア、設定ファイルの内容など)をコードで定義し、その状態を自動的に維持するためのツールです。
この「あるべき姿」を定義する設定ファイル(レシピやマニフェストと呼ばれる)を記述する際に、Rubyの文法が用いられます。

BAT(バッチ)
BAT(バッチファイル)は、Windowsのコマンドプロンプトで実行できる一連のコマンドを記述したファイルです。
PowerShellが登場する以前は、Windowsにおけるスクリプティングの主流でした。
その機能は非常にシンプルで、複雑な処理には向きません。
しかし、古いシステムや、PowerShellが導入されていない環境では、今でもバッチファイルが使われているケースがあります。
例えば、ファイルのコピーや移動、簡単なプログラムの実行といった基本的なタスクであれば、バッチファイルで十分に実現可能です。
新規で学ぶ優先度はPowerShellに比べて低いですが、既存システムの保守・運用を担当するインフラエンジニアであれば、基本的な読み書きができると役立つ場面があるかもしれません。
インフラエンジニアにとってプログラミングスキルは必須ではないものの習得した方がよい
これまでの解説の通り、担当領域によってはプログラミングスキルがなくてもインフラエンジニアとして働くことは可能です。
しかし、今後のキャリアを考えるならば、プログラミングスキルはもはや「あると便利なスキル」ではなく、「自身の市場価値を高め、キャリアパスを広げるための戦略的なスキル」へと変化しています。
スキルを習得することで、「キャリアの選択肢拡大」「業務の生産性向上」「問題解決能力の向上」といったメリットが生まれます。
もちろん、今すぐ高度なプログラミングスキルが必要というわけではありません。
まずは自分の業務に関連の深い言語から学習を始め、少しずつ自動化できる範囲を広げていくだけでも、大きな成長につながるはずです。
なお、なんの目標もなく勉強するとなるとモチベーションを維持しづらいので、資格取得を目指して勉強するのがおすすめです。

まとめ
以上、インフラエンジニアにプログラミングが必要かどうかについて解説してきました。
「インフラエンジニアはプログラミングをしない」というイメージは、もはや過去のものとなりつつあります。
必須ではないものの、今後のことを考えると、積極的に学んでおいた方がよいでしょう。