フリーランスエンジニアとして独立を考えている方や、今現在もフリーランスエンジニアとして活動している方の中には、「何か資格は取っておくべきだろうか?」と考えている人も多いでしょう。
実務経験やポートフォリオが最も重要視されるエンジニアの世界で、資格の取得に時間と費用をかける価値はあるのか、と判断に迷うこともあるはずです。
結論から言うと、資格がなければフリーランスエンジニアになれないということはありません。
しかし、資格を保有することにメリットがあるのも事実です。
そこでこの記事では、なぜフリーランスエンジニアにとって資格が有効なのかという理由から、キャリアアップや単価交渉に役立つおすすめの資格20選、そして効果的な学習方法まで、網羅的に解説していきます。
【本記事の信頼性】
- 執筆者は元エンジニア
- 大手プログラミングスクールのWebディレクター兼ライターを経験
- 自らも地元密着型のプログラミングスクールを運営
フリーランスエンジニアにも資格が必要な理由
フリーランスの世界では、実務経験と実績が最も重要視されます。
とはいえ、資格取得には複数のメリットがあるため、できれば取得しておいた方がよいでしょう。
具体的には、以下のようなメリットがあります。
他のフリーランスエンジニアとの差別化を図れる
フリーランスエンジニア市場は年々拡大しており、それに伴い競争も激化しています。
クライアントが複数のエンジニアの中から一人を選ぶ際、スキルや経験が同程度であれば、資格の有無が最終的な決め手になることも少なくありません。
特に、専門性の高い資格を保有していることは、その分野における深い知識と学習意欲の証明となり、他のエンジニアにはない強力なアピールポイントとなるでしょう。
どんな知識を持っているかを客観的に証明できる
クライアントの担当者が、必ずしも技術に精通しているとは限りません。
そのような担当者にとって、エンジニアが持つスキルのレベルを正確に判断するのは困難です。
ここで役立つのが資格の存在です。
国や大手ITベンダーが認定する資格は、その人が持つ知識や技術力を客観的な基準で証明してくれる公的な証明書のような役割を果たします。
これにより、クライアントは安心して案件を依頼することができ、信頼関係の構築にも繋がります。
スキルアップに役立つ
資格取得を目指す過程は、自身の知識を体系的に整理し、スキルアップするための絶好の機会となります。
実務では特定の技術領域に知識が偏りがちですが、資格試験の出題範囲を網羅的に学習することで、これまで曖昧だった部分や、実務ではあまり触れてこなかった分野の知識を補強できます。
このプロセスを通じて得られた知識は、エンジニアとしての基礎体力を向上させ、より複雑な課題に対応できる力を養ってくれるでしょう。
単価交渉に役立つ
資格は、自身の市場価値をクライアントにわかりやすく提示するための有効な材料にもなります。
特に、難易度の高い専門資格や、市場で需要の高いクラウド系の資格を保有していることは、高単価の案件を獲得するための有利な交渉材料となり得ます。
資格という客観的な裏付けがあることで、自信を持って希望単価を提示し、クライアントからの納得も得やすくなるでしょう。
国家資格とベンダー資格
エンジニア向けのIT資格は、大きく「国家資格」と「ベンダー資格」の2種類に分けられます。
それぞれに特徴があるため、違いを理解しておきましょう。
国家資格とは
国家資格は、その名の通り、国(日本では主に経済産業省)が認定する資格です。
情報処理推進機構(IPA)が試験を実施しており、特定の製品やサービスに依存しない、ITに関する普遍的で体系的な知識が問われます。
ITパスポートや基本情報技術者試験などがこれにあたります。
社会的信用度が非常に高く、IT業界で働く上での基礎知識を証明するのに適しています。
ベンダー資格とは
ベンダー資格は、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Oracleといった、特定の製品やサービスを提供しているIT企業(ベンダー)が独自に認定する資格です。
そのベンダーが提供する製品を扱う上での専門的な知識や実践的なスキルが問われます。
技術のトレンドを直接的に反映しているため、特定の分野(クラウド、データベースなど)での専門性をアピールする上で非常に強力で、実務に直結しやすいという特徴があります。
フリーランスエンジニアにおすすめの国家資格
まずは、ITの基礎体力や専門分野の深い知識を証明できる、おすすめの国家資格を紹介します。
ITパスポート
ITパスポートは、ITに関する最も基礎的な知識を証明する国家資格です。
エンジニアだけでなく、すべての社会人が対象となっており、ITの基本的な仕組みから経営戦略、コンプライアンスまで幅広い知識が問われます。
エンジニアとしての専門性を直接アピールするものではありませんが、IT業界で働く上での共通言語を身につけている証明になります。
基本情報技術者試験
基本情報技術者試験は、ITエンジニアの登竜門とも言われる国家資格です。
プログラミングの基礎、コンピュータサイエンス、ネットワーク、データベース、プロジェクトマネジメントなど、エンジニアとして働く上で必要となる土台の知識を体系的に証明できます。
未経験からフリーランスを目指す場合、最低限の知識レベルをアピールするために有効です。
応用情報技術者試験
応用情報技術者試験は、基本情報技術者試験の上位資格であり、より高度で実践的な知識と応用力が問われます。
技術的な知識だけでなく、経営戦略やマネジメントに関する深い理解も求められるため、プロジェクトリーダーや将来的にITコンサルタントを目指すエンジニアにとって、大きなアピールポイントとなるでしょう。
データベーススペシャリスト試験
データベーススペシャリスト試験は、データベースの設計、開発、運用、管理に関する高度な専門知識を証明する国家資格です。
膨大なデータを扱うシステムの根幹を支えるデータベースの専門家は常に需要が高く、この資格を保有していることは、高単価のデータベース関連案件を獲得する上で非常に有利に働きます。
ネットワークスペシャリスト試験
ネットワークスペシャリスト試験は、ネットワークの設計、構築、運用、保守に関する専門家であることを証明する資格です。
クラウド化が進む現代においても、その基盤となるネットワーク技術の重要性は変わりません。
セキュリティに関する知識も問われるため、インフラエンジニアとして高い信頼性を得ることができます。
システムアーキテクト試験
システムアーキテクト試験は、情報システムの要件定義から基本設計までを主導する、上流工程の専門家であることを証明する国家資格です。
クライアントのビジネス要求を深く理解し、それを実現するための最適なシステム全体の構造を設計する能力が問われます。
開発プロジェクトの最上流から関わりたいエンジニアにおすすめです。
エンベデッドシステムスペシャリスト試験
エンベデッドシステムスペシャリスト試験は、自動車や家電、産業機器などに組み込まれるコンピュータシステム(エンベデッドシステム)の開発に関する高度な知識を証明します。
IoTの普及に伴い、需要が年々高まっている資格です。
ハードウェアに近い領域の専門性を示せるため、特定の業界で重宝されるでしょう。
ITストラテジスト試験
ITストラテジスト試験は、企業の経営戦略に基づいて、ITを活用した事業戦略の策定や提案を行う、超上流工程の専門家であることを証明する最難関資格の一つです。
技術力だけでなく、高い経営知識とコンサルティング能力が求められます。
ITコンサルタントとして独立を目指すなら、これ以上ない強力な武器となります。
プロジェクトマネージャ試験
プロジェクトマネージャ試験は、情報システム開発プロジェクトの責任者として、プロジェクト全体を計画・実行・管理する能力を証明する国家資格です。
大規模な開発プロジェクトを成功に導くマネジメントスキルは、フリーランスとして高単価案件を獲得する上で非常に重要になります。
システム監査技術者試験
システム監査技術者試験は、情報システムのリスクやコントロールを、独立した第三者の立場で点検・評価・検証するシステム監査人の能力を証明する資格です。
情報セキュリティやガバナンスへの要求が高まる中で、監査やコンサルティングの分野で活躍したいエンジニアにとって価値の高い資格と言えます。
フリーランスエンジニアにおすすめのベンダー資格
次に、特定の技術分野における実践的なスキルを証明し、案件獲得に直結しやすいベンダー資格を紹介します。
オラクルマスター
オラクルマスターは、日本オラクル社が認定する、Oracle Databaseに関する技術力を証明する資格です。
データベース市場で高いシェアを誇る製品であり、特に大企業の基幹システムでは広く採用されています。
「Bronze」「Silver」「Gold」「Platinum」の4段階のレベルがあり、Gold以上を取得していると、データベースエンジニアとして高い評価を得られます。
AWS認定資格
AWS認定資格は、Amazon Web Services(AWS)に関する知識とスキルを証明する資格です。
クラウド市場で圧倒的なシェアを持つAWSのスキルは、インフラからWeb開発、データ分析まで、あらゆる領域で需要があります。
「Foundational」「Associate」「Professional」「Specialty」の4つのレベルがあり、自身のキャリアパスに合わせて選択することが可能です。
Google Cloud認定資格
Google Cloud認定資格は、Google Cloud Platform(GCP)に関する専門知識を証明する資格です。
AWSに次ぐシェアを持ち、特にデータ分析や機械学習の分野で強みを発揮します。
AWSと合わせて取得することで、マルチクラウドに対応できるエンジニアとして市場価値を大きく高めることができるでしょう。
LinuC
LinuCは、LPI-Japanが認定する、Linux技術者としてのスキルを証明する資格です。
サーバーOSとして圧倒的なシェアを持つLinuxの知識は、インフラエンジニアやサーバーサイドエンジニアにとって必須のスキルです。
レベル1から3まであり、自身のスキルレベルに応じて挑戦できます。
CCNA
CCNAは、シスコシステムズ社が認定する、ネットワークエンジニアの入門的な資格です。
ネットワークの基礎知識から、同社のルーターやスイッチ製品の基本的な設定・操作スキルまでが問われます。
ネットワークエンジニアとしてのキャリアをスタートする上で、デファクトスタンダードとなっている資格です。
G検定
G検定は、日本ディープラーニング協会(JDLA)が主催する、AI・ディープラーニングに関する知識を証明する資格です。
AIを事業に活用するためのリテラシーが問われるため、エンジニアだけでなく、プランナーやマネージャーにもおすすめです。
AI分野の案件に携わりたい場合の第一歩として有効です。
E検定
E検定は、G検定と同じくJDLAが主催する、ディープラーニングの実装スキルを証明するエンジニア向けの資格です。
理論の理解に加えて、Pythonを使った実装能力が問われるため、AIエンジニアとしてのより実践的なスキルをアピールできます。
Ruby技術者認定試験
Ruby技術者認定試験は、プログラミング言語Rubyの技術力を認定する試験です。
Webアプリケーションフレームワーク「Ruby on Rails」を使った開発案件は、特にスタートアップ企業を中心に根強い人気があります。
Rubyエンジニアとしての基礎力を客観的に示すことができます。
PHP技術者認定試験
PHP技術者認定試験は、プログラミング言語PHPの技術力を認定する試験です。
WordPressをはじめ、Web開発で広く使われているPHPのスキルを証明できます。
Web系のフリーランスエンジニアとして活動する上で、信頼性を高める一つの手段となるでしょう。
PMP
PMPは、プロジェクトマネジメント協会(PMI)が認定する、プロジェクトマネジメントに関する国際的な資格です。
特定の技術ではなく、プロジェクトを計画通りに遂行し、成功に導くためのマネジメントスキルが問われます。
プロジェクトマネージャーやITコンサルタントとして高単価案件を目指す上で、非常に評価の高い資格です。
資格取得のためのおすすめの勉強法
数ある資格の中から目標を定めたら、次は効率的に学習を進める方法を知ることが重要です。
公式教材があれば最優先で活用する
資格を主催している団体やベンダーが、公式のテキストや問題集(通称「黒本」「白本」など)を出版している場合は、それを学習の軸に据えるのが最も確実です。
試験で問われる知識が体系的にまとめられており、出題傾向を正確に把握することができます。
まずは公式教材を一通りこなし、全体像を掴むことから始めましょう。
オンライン学習サイトで独学する
Progateなどのオンライン学習サイトでは、多くの資格試験に対応した対策講座が提供されています。
スライドや動画といった形式で自分のペースで学習を進められ、書籍だけではわかりにくい部分も視覚的に理解しやすいのがメリットです。
模擬試験がセットになっている講座も多く、実践的な試験対策が可能です。
プログラミングスクールを利用する
独学でのモチベーション維持に自信がない、あるいは短期間で集中的に学習したい場合は、プログラミングスクールの資格対策コースを利用するのも一つの手です。
専門の講師から直接指導を受けられ、わからない点をすぐに質問できる環境が整っています。
費用はかかりますが、体系的なカリキュラムと学習サポートにより、挫折するリスクを低減できるでしょう。
フリーランスエンジニアにとって資格が万能ではないことも理解しておくべき
これまで資格取得のメリットを数多く紹介してきましたが、フリーランスエンジニアの世界において、資格がすべてを解決してくれる万能の武器ではないことも理解しておく必要があります。
クライアントが最終的に評価するのは、資格の有無以上に、実務で問題を解決できる「本質的なスキル」と、それを証明する「実績(ポートフォリオ)」です。
どれだけ多くの難関資格を保有していても、実際のコーディング能力が低かったり、コミュニケーション能力に問題があったりすれば、継続的に案件を獲得することは難しいでしょう。
資格は、あくまで自身のスキルセットを補強し、客観的に証明するための一つのツールと捉えるべきです。
資格取得をゴールにするのではなく、そこで得た知識を実務でどう活かすか、そしてポートフォリオとしてどう形にするかを常に意識することが、成功するフリーランスエンジニアへの道筋です。
まとめ
以上、フリーランスエンジニアが資格を取得するメリットから、おすすめの具体的な資格、そして学習方法までを解説しました。
競争の激しいフリーランス市場で勝ち抜いていくために、資格取得を自己投資の一環として捉え、戦略的にキャリアに取り入れてみてはいかがでしょうか。
資格という客観的な信頼性を加えることで、自身のエンジニアとしての価値は、より一層高まるはずです。